深夜から降り続いていたらしい雪は、積もりに積もって辺り一面白銀の世界に変えた。




雪のなかの線路




「通りで寒ぃと思ったら…こんなに積もってるとは…」

 土方さんが分厚い綿入り半纏を着込んで如何にも寒がりですって顔して言った。

「土方さん、煙草の吸いすぎでさァ。血管が収縮して血が全身に行き渡らず冷え症になってるに違いねェ」

 窓辺にいた俺は、土方さんを振り返らずにそう言った。
 冷やかしもあるが、これは事実だ。

「あぁ…そうらしいな…指先が冷たくて仕方ねェ」

 土方さんも自覚があるのか、文句も言わずに聞き流した。

「こんな日も見回りですかィ?」

「当たり前だ」

「サボっていいですかね?寒さでどうも体が動かねェ」

 わざと身体をぎくしゃく動かしてみれば不機嫌そうな顔で睨んでくる。

 別に怖くも何ともないけれど、後で煩いから行ってやろう。




 一時間後、隊服の上に厚手のコートを羽織って、手袋にマフラーを装備。
 長靴を履いていざ出発してみた。

 道にはあまり足跡がなかった。
 白い道が続く。

 隣を歩く土方さんは、相変わらず煙草を吸っていた。




「土方さん、こんなつるつる滑る日に事件を起こそうなんざただの馬鹿ですぜ、救えねェ」

「こういう日に限って馬鹿が出て来るってこともあるだろ」

「きっと犬ですぜ、犬…歌にもある」




 通りがかった公園で、チャイナが犬と暴れていた。
 注意しようとした土方さんは「遊んでるだけアル」って言われて大人しく引き下がった。

 確かに奴らにしてみれば遊んでるだけなのかもしれない。
 たとえジャングルジムがひん曲がっていたとしても。




 小一時間ほど歩けば、もう体は充分暖まっていた。

「土方さん、どうやら電車は運休みたいですぜ」

 歩道橋から眼下を見下ろすと、駅があるのに線路が見えないほど雪が積もっていた。
 それでも動けるだろうに、何故か電車が動いた形跡がない。

「何でですかね?道を見失ったのかな…土方さんみたいに」

「総悟、お前…アレだろ、とりあえず俺にしときゃいいってだけだろ、そのキャスティング」

「土方さんはいつでも道を見失って血迷って…あ、違う、彷徨ってやすぜ…目は瞳孔開き気味ですがね」

 煙草を持つ手が震えてたけど、特に言うことはないらしい。




 暫くして口を開いた土方さんは、さっきの話を持ち出した。




「人は道を見失うことなんかねェんだよ…いつも自分で選んだ道進んでんだからな」

「そうなんですかィ」

「道に迷いはしても選ぶのは自分だ。見失ってなんかない」

 あぁ、なるほど。

「あ…電車が…」

 ふと見れば、電車が動き出していた。




「ほら、行くぞ。山崎がおでん用意して待ってる」

 何故そんなことが解るのか。
 とりあえず、ざくざく雪を踏みつけながら帰る。




 その後、電車は送電線がぷっつり切れていて動かなかったことを知った。




 最初から解ってはいたが、道を見失ったわけではなかった。




 雪に埋もれた線路を進む電車。
 雪には電車が通った跡が残る。

 それを辿れば次の場所へ行ける。

 俺は土方さんと白い道に帰る場所に向かって跡を残す。




 雪の中の線路を思いながら。