言葉では言い表せないもの。
 10時頃に目覚めた俺は遅い朝食を食べ、シグルドに会いに街へ出た。




「よ、昴。何やってんだ?」

 広場に着くと、イヴァンが機嫌よく挨拶をしてきた。

「よ、イヴァン。シグルドに会いたいんだけど…」

「シグルドぉ?!」

 イヴァンは心底嫌そうな顔をする…よく解るけど。




「あいつなら、城の前にいたぞ。今はどうか知らねぇけど」

 そこでちゃんと答えるとこがイヴァンらしい。

「そっか、ありがとう…イヴァン」

「ったく、あいつに何の用だ?」

 シグルドは嫌いだけどスキャンダルは好き、って感じだ。

「昨日、変なとこ見せたから、気にしてたら悪いし、謝ろうと思って」

 シグルドにしてみれば明らかに不審だったし。

「あ〜…なるほどな」

 イヴァンは心当たりがあるらしい。

「いつもより元気なさそうだったぜ、あいつ」

「…俺のせいかも」

「ま、違ったとしても…お前が気になるなら謝っとけ」




 ぽんぽん俺の頭を叩いて、イヴァンは子分たちの所へ行ってしまった。




 城に行くと、確かにシグルドが居た。

 門の前で何かを考えるように俯いてる。

「シグルド」

 名前を呼ぶと、顔を上げて俺を見た。




「昴」

「あのさ、シグルド…昨日はごめん」

 頭を下げると、シグルドが長い溜息をついた。




「何故謝る?お前は何か非のあることをしたのか?」

「え?」

 顔を上げると、シグルドが申し訳なさそうに口を開いた。




「配慮のなかったのは俺の方だ」

「何で?」




 シグルドはしまった、って顔をした。

「いや…クラウスに叱られてな」

 少し狼狽えてる。




「それって、俺が…記憶ないのと関係あること?」

「…ぃゃ…」

 もうどうしようもない…シグルドは嘘のつけない性格だ。




「いいよ、別に…隠しときたいなら隠してても」

 隠すことに何か意味があるんだろうし。
 それが俺のためならなおさらだ。




「…昴…」

「うぅん…ごめんな、俺のせいで叱られたんだろ?」

「まぁ…」

「でも、クラウスに叱られて凹むなんて…シグルドも面白いな」

 そう言うと、シグルドは違う、という顔になった。




「俺は…ただ…あいつが…」

 そこまで言って、悔しそうに拳を握りしめる。

「…あいつ…?」

「…昴!」




 シグルドに突然名前を呼ばれて驚いた。

「はぃ?!」

「今度の祭、俺と一緒に行かないか?」

「…ま…つり?」

 ティーナの言ってた?

「…いいけど…」




「…約束だ」

 シグルドが真剣な顔をするから、俺は頷いた。
 断る理由もないし。




「…当日、教会に迎えに行く」

 一方的にそう言うと、シグルドは城門を開けさせて城の中に入ってしまった。

「…一体…何…?」




 さっぱり解らないまま城を見上げる。

 シグルドは誰に対して怒ってたんだ?
 あいつ?




 この前ヴェンツェルもあいつとか言ってたような気がする。
 同じ人なんだろうか。




 ヴェンツェルは、見えるなら、とか言っていた。
 何が見えるのか。

 見えないはずのものが見えるのか。
 たとえば、幽霊とか。




 胸がちくんと痛んだ。




 解ってる。
 解ってるけど、何が解ってるのかが解らない。

 自分のことなのに。




 お嬢が言ってたように…自分一人で考えなくてもいいんだけど。
 誰に言えばいいかな。

「…レナート…」

 浮かぶのはやはりレナートだった。




 もしかしたらと思っても、確証がない。
 その意味も解らない。




「ダメな奴…」

 自分にそう言うしかなかった。




 言葉では言い表せないもの。




 もどかしく思う自分の気持ち。