その夜、昨日と同じ時間に俺はまた一人で墓地へ行った。
昨日レナートが見ていた墓の前に立つ。
大きな墓の墓石には、沢山文字が書かれている。
俺は読めないけど、以前エマに教えてもらった。
ここに書かれているのは、戦争で亡くなった人たちの名前だと。
突然、後ろから暖かいってよりも熱い手が俺の目を塞いだ。
「うゎ?!」
「グッドイブニ〜ン」
「…レナート?」
昨日よりもテンションが高い。
でも、どこか…何か、無理をしているようにも思えた。
「プリちゃん、どうした?元気がないな…誰かに虐められたのか?」
「何だよ、プリちゃんて…」
手を外されてレナートを見る。
レナートは笑って答えた。
「そのままの意味だ。気にするな」
何がそのままの意味なんだ?
プリって、もしかしてプリティのプリ?!
「レナート、こんな夜中に会ってどうするんだ?」
溜息をついて、ふと浮かんだことを聞いた。
「意味はナッシング。ただ、昴に会いたかっただけだ」
「ふぅん?」
よく解らない。
待ち合わせが墓地な時点で解らないに決まってるけど。
とりあえず、デートではないと思う。
「…レナート、何するんだ?これから」
「そうだな…トークでもするか」
レナートは俺の腕を引いて墓地の中にある木の下に行った。
「ここにシッダウン」
「…シッ…あぁ、座るのか」
言われた通り座る。
レナートは俺の右隣に座った。
眼帯のない左目が優しく見える。
「何を話す?」
「昴の話したいことを聴きたい」
何か話すことがあるから話そうっていったのかと思ったら、違うらしい。
俺の話したいことって…何。
「そんなこと言われても…」
困りながらも、俺は口を開いた。
「俺、妹がいるんだ。双子でさ…名前は暁っていうんだけど…」
妹の話をした。
強がってるけどホントは寂しがり屋だとか、俺に似ておっちょこちょいだとか、お節介だとか。
二卵性だから外見はそんなにそっくりって訳でもないけど、兄弟だってのはすぐ解る、とか。
そんな、身内自慢みたいな話を…レナートは黙って聴いてた。
「…あいつ、凄い気が強いんだ。多分ヴェンツェル…黒の導師と口ならやり合えるんじゃないかな」
「昴のシスターはそんなに強いのか」
「でも優しいよ」
レナートはたまになるほど、と感心したりする。
レナートにも家族のことを聞きたかったけど、聞いちゃいけないような気がしてやめた。
きっと話したいときに、話したいことだけを話してくれると思う。
無理に聞かなくてもいいんだ。
「…もう11時だ。よい子はスリープの時間だな」
そんなこんなで、いつの間にか時間は過ぎていた。
レナートに言われて、もうそんな時間なのかと残念な気持ちになる。
俺ばかりが話していた1時間ほどだったのだけど。
2人で立ち上がると、レナートに見下ろされる。
でも、それは嫌な感覚ではなくて…むしろ、どこか懐かしいもの。
この気持ちは一体なんだろう。
優しいけど強い瞳に見つめられて…目が離せなかった。
凄く真剣な顔で見られていたから…キスされるかと思った。
「昴、グッナイ」
優しく頭を撫でられて…ドキドキした。
「…おやすみ、レナート。また…明日」
「…あ…あぁ」
レナートは少し驚いていた。
一方的に約束して、そのまま墓地を出て教会に向かう。
振り返らなかった。
レナートが、ずっと俺を見ているような気がして。
そして、俺はベッドの中で眠れぬ夜を過ごした。
レナートは多分、明日も会ってくれる。
俺は知らない。
昼間は何をしているのか、どこに滞在しているのか。
剣を持ってるし、多分そういう職業なんだろう。
墓参りに来たのだから…そのうち自分の国に帰ってしまうかもしれない。
それは嫌だ。
胸が、針で刺されたように痛んだ。
「……何で…」
枕に顔を埋めて気持ちを落ち着かせる。
眼を閉じて、別のことを考えた。
そうだ、シグルドに今日変なところを見せてしまった。
明日謝ろう。
シグルドのことだから…気にしてるかもしれない。
あいつは変なところを気にするから。
考えていると、段々落ち着いてきた。
「…はぁ…」
それでも、なかなか寝付けずにいた。
溜息を何度ついただろう。
結局明け方まで、俺は眠れなかった。
眠れぬ夜に想うもの。
気付かない振りをしている、誰かへの想い。
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