| この瞳には映らないもの。 |
| ルツをお茶に誘ったあと、意味もなく街を彷徨いた。 どうしてあんなにシグルドの言葉に反応したんだろう。
さっきから頭痛がするし吐き気もする。
「昴君!」 俯いていた足下に影が出来た。 「久し振り!元気だった?」 「…ぁ…うん…ティーナは?」 無理矢理笑顔を向けると、表情が曇る。 「私は元気だけど…昴君、ちっとも元気そうに見えないよ」 「…ごめん、考えごとしてて」 どうも、しばらくはもとのように元気になれそうにない。
「ちょっと違うかな。あ、昴君は知らないよね、もうすぐお祭りなの」
「そっか、じゃあ見なくちゃな」 「うん」 ティーナが微笑む。
「あぁ。またな」 走って仲間のもとに行くティーナを見送って、俺は深く溜息を吐いた。
「…手…繋ぎたいな」
でも、暖かい手を…俺は覚えてる。
「昴、遅い」 「昴君を待たずに先に始めていますよ」 ルツは少し怒ったように、スティラルカはご機嫌に言った。 「あ…ごめん、遅くなって」 「昴君、帰ってきたんですね」 クラウスがお菓子の追加を持ってきた。 「クラウス、遅くなってごめん」 「いいんですよ。座ってください、今お茶を入れますから」 クラウスはお菓子をテーブルに置くと、中に戻っていった。
スティラルカがにこにこ笑って言った。 「あ…うん。昨日…墓地に行ってみたんだけど…」 「おや、いいことはありましたか?」
「…そいつ…」 カップから手を離さずに、ルツが不機嫌そうに俺を見る。 「昴に、悪いことしてないか?」 「ルツ?」
「ルツ君、昴君は大丈夫ですよ」 スティラルカが宥めるように言う。 「俺はレナートと話してただけだよ」 ルツは、それでも何か言いたそうにしていた。 「心配ですか?」 「心配だ」
「今は…昴からは昴の匂いしかしてないけど…心配だ」 悲しそうな顔をして、ルツは俯く。 「大丈夫だよ、ルツ。俺は危ないことなんかしないし…」
「スティラルカ?」
ルツには何が解るんだろう。 ティグリであるルツ。 勘が良くて、頭もいいから。
レナートが悪いことをする人には見えない。
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