消せない記憶の中で輝くもの。
 目を覚ましたら、頬が濡れていた。
 寝ながら泣いていたらしい。




「…怖い夢でも見たのかな…」

 思い出そうとしたけど…怖かった記憶はない。
 夢も、見たつもりはなかった。
 ただ、暖かい思い出に包まれていたような気がした。

 しばらく布団の中でもそもそ動いた後、起き上がる。




「今日も…いい天気だな…」

 カーテンの隙間から射す朝日が眩しくて目を細める。

 今日はスティラルカに会わなきゃ。
 どこに行けば会えるんだろう。




 着替えて階下に降りると、クラウスが立っていた。

「昴君、おはようございます」

「おはようクラウス」

 笑顔を向けるクラウスに、俺も笑顔を向ける。

「今日はスティラルカさんとお茶の予定なんですが、昴君もどうですか?」

 スティラルカ?!
 いいところに!

「うん、いいよ。スティラルカに用もあるし」

「そうなんですか。スティラルカさんはまた面白い色のお茶を持ってきてくださるそうですよ」

「へぇ…何時くらいに始めるんだ?」

「2時頃なんですが」

「じゃあ、俺ちょっと出かけてくるよ」

「はい」




 暇なときは街を彷徨くのが俺の日課になっていた。
 ホルシードではそんなこと、なかったんだけど。




「…ぇ?」

 俺、今何を考えてた?
 どこで…どうだったって?




「…昴君?」

「あ…うぅん。あ、ルツも…呼んでいいかな?」

「いいですよ。大歓迎です」

 頭が痛い…でも我慢する。
 昨日の夜と同じ痛みだ。

「じゃあ、また後で」




 朝食を食べて教会を出ると、すぐ人にぶつかった。

「うわぁ…?!」

 尻餅をつきそうになったけど、腕を掴まれて助けられた。

「大丈夫か?」

 顔を上げると、シグルドが心配そうな顔をしていた。

「大丈夫。ごめん、ありがとう」

 笑顔を見せると、そうか、と言われた。

「どこへ行く?」

「森。ルツのとこ」

「森か…モンスターには気をつけろ」




 モンスター?
 それを聞いて、理由は解らないけど…自分の顔から血の気が引くのを感じた。

 それがとても忌まわしいもので、
 それがとても、怖いことで。
 何故か、苦しい。




「…昴?」

「……ぁ…うん。何でもない…俺、もう行くよ」




 顔を上げられない。
 泣いてしまいそうで。

 悲しくて、切なくて。

「クラウスは中にいるから…」

「…昴?」




 俺は走って森に向かった。
 後ろを振り返ることなんて出来なかった。

 シグルドには、申し訳ないと思ったけれど。




 だんだんと、思い出せないものが増えていく。
 それらが全て繋がれば…何か大切なものを思い出せるような気がする。

 俺の持たない記憶。
 消したのか、消されたのか。
 それでも、消しきれない大切な光。

 大切なものを思い出せば、俺は本当の俺になれると思う。
 それが、何かを失うことと等しくても。




 消せない記憶の中で輝くもの。




 暖かな想いと、切ない気持ち。