| 「忘れてるって…解ってんのになぁ」 レナートは墓地の木の上で呟いた。
昴の部屋の灯りは、つい先ほど消えた。
「…覚えてるのは俺だけか」
自分が望んだのだと言い聞かせる。
「また、ゴーストに後戻りだ…」
前とほとんど同じ。
あの頃と違うのは、自分で切った髪と、治った右目、エリダラーダの崩壊を願わないこと。
そして、昴を愛している、ということだけだった。
「昴」
一週間振りに触れた。
やはり、優しく輝いていた。
何も知らない綺麗な瞳を向けてくれた。
「愛してる」
この言葉は、もう二度と言えないと思った。
それでも、胸の中に溢れている。
自分は昴に惹かれていた。
昴もレナートに惹かれていた。
だが、今は違う。
レナートの想いは変わらないのに、昴にはレナートの記憶はない。
レナートを「好き」という感情はない。
レナートは恋仲に戻りたいという訳ではなかった。
ただ、昴の傍にいたいだけだった。
自分以外の誰を想おうと、昴の自由だと解っている。
あの日、アーテシュリングの下で誓ったことは永劫変わることはない。
昴を一生愛し続ける。
亡霊として存在し続ける限り。
大切な存在を失うくらいなら、自分が消えた方がましだと思っていた。
昴が存在していることが、レナートの存在理由なのだから。
どうせなら初めからレナートという男なんて存在していないという設定にしてくれればいいのに。
失われたのは、昴のレナートに関する記憶とレナートの命だけ。
それで構わないのだから、今更どうこうする気もない。
人間と同じように物や人に触れたりすることもできる。
それでも、あまり墓地から離れることは出来なかった。
離れすぎると姿が消えてしまい、何にも触れない。
それは、ここ数日の自分の行動で実証できた。
やはり、自分は実体を持ってはいるが、幽霊なのだ。
傍に居たくても、常に居られるわけではない。
一週間ほど前までは、ずっと一緒にいたのに。
自分の存在を消し去ってしまいたくなるほどの後悔と憤り。
守れなかった。
大切なのに。
失うことを何より恐れていた。
「昴…幸せになれ」
自分が幸せにしたかった。
空から降ってきた神の使い。
レナートは神なんか信じていなかった。
それでも、一度だけ信じようと思った。
それが昴。
無理矢理自分に目を向けさせた。
それでも、最後には昴が望んでくれた。
好きなんて思わなかったのに、愛してるなんて思わなかったのに。
彼なしでは生きていけないと思うほど、気がつけば愛していた。
キスをするのも、抱きしめるのも。
昴に対しては全て自分が与える存在でありたかった。
望むことは全て叶えてやりたい。
それほど大切だった。
だから、昴を失うくらいなら、自分の命を失っても構わなかった。
昴のくれた命だから、昴に返す。
自分にはいらない。
失うことを厭わないもの。
レナートにとって、それは自分の命だった。
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