目を閉じれば浮かぶもの。
 墓地に着く。
 昼間は怖くも何ともないのに、やはり夜は怖い。
 幽霊を信じてるとかそういうのじゃなくて、怖い。




 勇気を出して墓地一帯を見回すと人が居ることに気付いた。
 闇の中なのにはっきりと解る容姿。
 金色の髪に、剣を携えた…傭兵風?
 傭兵がどんなものかは解らないけど、そんな印象。
 大きな石の墓の前に立っている。
 こんな時間に墓参り?




 何だが気になって、近づいてしまった。
 近づいている途中で、その人が気付いたのか、俺を振り返った。
 目が合った。
 右目に眼帯をしていたから、左目とだけだけど。

「あ…」




 その人はもの凄く、驚いていた。




「ごめんなさい」

 頭を下げて、慌てて謝る。
 こんな時間に墓参りしてたんだ、見られたいわけない!
 興味があったなんて、不純な動機だ。




 足音が聞こえて気がつくと、いつの間にか目の前にその人が立っていた。

「…あ…あの…」

「謝る必要はナッシングだ」

 何か、変な英語混じってるし。
 改めて、顔を見る。




 男らしい、凛々しい顔で、右目に眼帯。
 悪戯っぽく笑ってる。
 でも、優しい顔。
 目の色が、不思議だった。
 俺の知る限りの色の名前じゃ言い表せないような色。
 そして、目に凄く力がある。




「ボーイはこんな時間に肝試しか?」

「…知り合いが、今夜ここに来たらいいことがある、って…だから来たんだ」




 スティラルカの言ったことを信用してたわけじゃない。
 でも、何かに期待していたんだ。

「そうか」

「お兄さんは?」

 何故ここにいるのかが気になって、訊ねてみた。

「…墓参り…かな」

 どことなく、憂いを帯びたような顔。

 しばらく、どちら何も言葉を発しなかった。
 沈黙が訪れる。




「あ…俺、昴っていうんだ。そこの教会に世話になってる」

 沈黙が嫌で、話を振ってみた。

「お兄さんは?どこの人?名前は?」

 しばらく困ったような顔をされる。
 聞いちゃ不味かったみたいだ。




「あ、無理にとは言わないから!ごめんなさい!」




「昴」

 名前を呼ばれて、顔を上げた。
 何だか、聞き覚えのある感触。




「また明日も…ここに来るか?」

「え?」

「…昼間は来れないけど、俺は夜なら居るから」




 夜に、って、何か意味があるのかな?

「いいよ。来る」

 墓地は怖いけど、一人じゃないなら。




「…俺ネームイズレナートだ」




「…レナート…」

 どこかで…聞いた名前だ。
 懐かしいような気がする。




「昴、今日はもう帰った方がいい」

 あたまを撫でられる。
 どこかで同じようにされた記憶。
 いつ?誰に?




 レナートの顔を見上げる。
 俺より大きくて逞しいから、必然的に見上げることになる。

「グッナイ、昴」

 優しく微笑むのが見えた。
 レナートが闇の中に消えていくのを、俺は見送る。




「…似てる…?」

 誰になのか解らないけど。
 似てるんだ、誰かに。




 思い出せない誰かになのか、それとも、ただ単に別の人になのか。




 でも、懐かしい感じがした。




 スティラルカの言っていたいいこと、ってこれのことだったんだろうか。
 明日スティラルカに聞いてみよう。




 もう一度墓地を見回してから、自分の部屋に戻った。

 明日はスティラルカに会って、レナートに会って。
 いいこと、の正体と…レナートの…ことを。

 レナートのことなんて、名前しか知らないけど…ずっと前から、知ってる気がした。
 初めて逢ったのに、初めて逢った、って気がしない。




 レナート。
 よっぽど大切な人があのお墓に入ってるんだな。
 きっと、レナートはエリダラーダの人じゃない。
 何となくだけど、そう思った。
 話し方も英語が混じってたし。
 あれは多分訛り。
 遠いところから来たんだろうな。
 墓参りのために。




 何だか、また頭が痛くなってきた。
 考えるのをやめると痛みが和らぐ。
 何なんだ、一体。
 俺の記憶は、俺自身に封じられてるとでもいうのか。




「…ば〜か…」

 誰に対してかも解らない言葉を呟いてベッドに横になった。
 でも、多分、自分に対してだ。

 自分に対して…苛ついてる。

 大切な事がなにも解らない、自分に。




「もう…寝よう…」

 寝て、目が覚めれば、少しは落ち着くだろう。




 目を閉じれば浮かぶもの。




 何故かレナートの笑顔だった。