| 手を伸ばしても届かないもの。 |
| 広場の付近を彷徨いて知り合いの顔を見て回る。 イヴァンは子分を従えて相変わらず忙しなく動いていた。 アレクは歴代の王とは違うらしく、よく街を視察していた。
「昴様」 微笑んで、ちょこんといつものお嬢様な挨拶をされた。
「お嬢も麗しゅうございます」
「え?」 「昴様、本日は少々元気がないように見受けられますわ」
「そうかな?」 「そうですわ」
「…今から教会に参ろうと思っていましたの。昴様も帰るついでにいかが?」 特に断る理由もない、と了解した。
「いいえ、クラウス様にお茶にお誘いいただきましたの」 「なるほど」 そういえば昨日そんなことを言っていたような気がする。 「昴様は…何か不安なことでもおありになって?」 「ん?」 「わたくしが見る限り…とても悲しそうなお顔をしていましてよ?」 悲しそう、と言われて…今の自分の気持ちを考えてみた。
お嬢はしばらく黙っていたが、俺に笑顔を向けた。 「自分のことをすべて理解しようとするのは不可能ですわ。人に言われて気づくこともありますもの」 お嬢は何かを思い出すように言った。
「誰に?」 「…わたくしでお役に立てるのでしたらわたくしでも構いません」 お嬢は相変わらず笑顔だ。
お嬢は、俺が考えようとしなかったことを言ってのけた。
呟いて、目を閉じた。
夕飯の匂いがした。 「昴君、丁度よかった…迎えに行こうと思っていたんです」 「そっか、ありがとうクラウス、エマ」
「そうだ、昴さん。今日、ルツさんが薬草を届けてくださったのです」 エマが嬉しそうな顔で報告してくれた。 「セーターのお礼だそうです」 「よかったな」 「はい。私はお礼などはしていただかなくてよかったのですが、とても嬉しかったです」
「はい、お互いにいいことをし合うと、心も暖まりますね」 クラウスもニコニコしながらエマを見ていた。
「なるほど、じゃあ神様は目がいくつあっても足りないな」 「そうですね」 初めて気づいた、とでも言うようにクラウスは驚いていた。
「…そろそろかな」 昼間にスティラルカが言ってた、いいことって何だろう? 外に出て星空を見上げて、深呼吸をして墓地に向かった。
でも、届かない。
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