| 願いの代わりに手に入れたもの。 |
| 「昴、一体何を考えている?」 出口に差し掛かったところで後ろから声が聞こえた。 「…ヴェンツェル」 「どうした?元気がないな」 ゆっくりと近づいてくる。 「…何かを…誰かを忘れてるような気がして。でも、思い出せないんだ」 ヴェンツェルの目を見ながら、思ったことを伝えた。 「……そうか」 一瞬何か言いたそうにしていたけど、それは口から出ることはなかった。 「…俺にはもう…アダムの息子の力はないんだよな?」 「何故…そんなことを聞く?」 「…クラウスが、俺がお前と接触するのを嫌がってるみたいだから」 確かにいいことではないのかもしれないけど…でも、気になっていた。
呟くようにヴェンツェルが言う。 「アダムの息子は、願いを叶えて力を使い果たし元の世界に帰る」 「でも、俺はここにいる」 エリダラーダにいる。 「そうだ。だが、帰る前に願いの力で…お前はただの人となった」 ただの人になった? 「…だからお前にはもう何の力もなくなったはずだった」 話を聞いていていて、何となく解るような解らないような気がした。 「あいつが願いを反故にすることを願ったために、お前に力が戻ったのだ」 あいつ? 「…願いが反故になったために、お前はまた…アダムの息子になったのだ」 だからクラウスは俺とヴェンツェルを近づけたくない。 「……俺がただの人になることを願われた…そして反故になった…?」 呟くように確認しながら考える。
ヴェンツェルは忌々しげに溜息をつく。 解らないこと。 「…ヴェンツェル…あいつって誰だ?」 「…知りたいのか?」 知りたいに決まってるじゃないか。 「…俺から教えるわけにはいかない。知りたいのなら、自分で探せ。見えるのならな…」 見える?
「え?」 唐突に言われて驚く。 「お前はお前一人の力で生きているのではない」 ヴェンツェルがやけに真面目腐った顔で言ってくる。 「命は儚く脆い。だがその代償は決して安くはない」 「な…に…?」 命。 「死を願うな」 「……別に…死にたくなんか…」 死にたい訳ないじゃないか。 「お前が生きていることが、あいつの願いなのだから」 そう言ったヴェンツェルの顔が、少しだけ悲しそうだった。 俺は誰かに生きていて欲しいと願われて生きてる?
思い出してはいけないのだろうか。 思い出せば少しは楽になるのか。 考えてみた。 命の代償。 「…っ……」 頭痛がした。 願いの代わりに手に入れたもの。 思い出せない誰かにとって、それは何だったのだろう。 |