世界で一番早く朝が来る場所〜永遠〜J




 グリードの元に行く準備を済ませて、お兄さんの部屋に向かった。




「エンヴィー、今日は何がしたい?」

 何も知らないお兄さんは、笑顔でそう訊ねてきた。

「お兄さんがしたいことでいいよ」

 そう言えば、大佐は俺を抱きたいなんて言わなかった。
 理由は解らないけど、ただ俺を抱きしめるだけだった。
 この人もそうなのだろうか。

「…服を買いに行こうか?」

「服?」

 意外なことを言われて驚いた。

「…君に似合う服」

「お兄さん、何か言いたそうだね」

 じっと見つめると、バレたか、という顔をして言った。

「実はね…」




 俺の頬に触れながら、お兄さんは話し始める。




「今…君をモデルにした話を書いているんだよ」

「…モデル…?」

「あぁ。全く同じというわけではなくて…容姿とか…私が見る限りのだがね」




 そりゃそうだ。
 俺のことを全部知ってたらエスパー。
 もしくはストーカー。




「嫌だったかな?」

「うぅん…出来たら読ませてね」

「あぁ」




 俺がモデルで、どんな話なのか。




「何て題名?」

 気になったので訊ねてみた。

「…まだ決まっていないが…」

「…俺がつけてもいいかな?」

「構わないよ」

 お兄さんは笑顔を向ける。

「どんな話?」

「……一応…一人の少女が…自分の幸せを探す話だよ」

 お兄さんは少し考えてからそう言った。

「…ふぅん?」

「君のような黒く長い髪と、アメジストのような瞳を持つ少女のね」




 その物語は、俺に被るのだろうか。

 俺は幸せを…昔は探していた。
 自分の存在意義を探していた。
 そして大佐と出会って…束の間の幸せを手に入れた。




「世界で一番早く朝が来る場所」




 お兄さんの顔を見ていて、その言葉が浮かんだ。

「綺麗な言葉だね」

「うん」

 そういえば、同じようなことを俺はリザさんに聞いて、大佐に言ったような気がする。

「それにするよ。ありがとう」

「あれでいいの?」

 不安だ。

「いいよ」

 お兄さんは嬉しそうな顔をしていた。




「…さぁ、買いに行こう。小説の資料にもなるんだ」

「…お兄さんたら〜…趣味を利用?」

「いや、そうでもないよ?」




 くすくす笑いながら…心の中では、あの日の大佐をダブらせていた。




「お兄さんは…俺にはどんな服が似合うと思う?」

「…そうだな…白か黒かな?」

「モノクロ?」




 女物の服ばかりの店の中。
 見た目が中性的だからこそ居ても不審がられない。




「白いワンピース…」

 昔大佐に買ってもらったものとよく似たものが目に留まる。

「…ん?あれがいいのかい?」

 お兄さんは俺の見ているものに目を向けて言った。

「…うぅん…いい」

 目を外して呟いた。




「…大好きな人に買ってもらったものに似てたから」




 思い出すのは辛い。
 だけど、少しだけ幸せに浸れるんだ。

 大佐に愛されている感覚。




「…エンヴィー」

 しばらく黙っていたお兄さんが言った。




「私が…もし君の愛していた大佐だったら…どうする?」




 真剣な眼差し。




 お兄さんは大佐に似ている。

 顔、声、仕草。

 大佐と同じ。

 だけど、俺の中では大佐はもう居ない存在だ。
 ずっと離れていたから…記憶も曖昧になってる。

 大佐の写真なんかないし、ただ自分の中にある大佐と重ね合わせているだけなのかもしれない。

 だから確信なんかないんだ。




「…お兄さんが大佐だったら?」

 呟くように言ってお兄さんを見つめる。




「お兄さんが大佐だったら…ごめんねって謝って…ありがとうってキスして…さよならって言う…」




 裏切ってしまってごめんなさい。
 愛してくれてありがとう。
 大好きだよ、さようなら。




 それしか言えない。




 もう愛される資格なんかないから、忘れて欲しいと願う。




「…そうか」

 それから、2人で店を回って黒のパンツに黒のシャツという何とも言いがたい買い物をした。

「君は肌が白いから黒によく映える」




 黒は好きだ。

 大佐の瞳。
 大佐の髪。

 白よりも、ずっと身近なものだから。




 何よりも大切なあの人の色だから。