世界で一番早く朝が来る場所〜永遠〜I




 震える指で覚えた番号を回す。

 3コール目で出たあの人は。

 俺がどんなに想っても…きっと欲しい言葉をくれはしないだろう。




『はい』

 優しい声。





「お兄さん」

 平静を装って声を出した。




『エンヴィー。丁度よかった』

「どうかしたの?」

『君に…聞きたいことというか…話があってね』




 何も知らないから。
 お兄さん。




『よかったら、なんだが…今週中に会えるかな』

「…今週はずっと空いてるよ」

『仕事は?』

「休みなんだ」




 嘘じゃない。
 だから、何も言わないで。




『そうなのか。じゃあ…ずっと一緒に居ようか』

「え?」




『今週はずっと一緒に居ようか』




 言葉が詰まる。

 言いたいことを言いたい。
 でも言えない。

 言ったらお兄さんはどうするだろう。

 俺を捨てるかな。




『そういえば…君の用事は?』

「…うぅん…何でもない。ただ声が聞きたかっただけ」




 今は日曜日。
 土曜日まで一緒に居られるんだね。

 一緒なんだね。




「…一緒に居られるの…嬉しいよ」

『私もだよ』




 受話器の向こうでお兄さんが笑った気がした。

 ずっと笑っていて欲しい。
 好きな人の横で、幸せそうに。

 俺の記憶の中の大佐は…いつも笑顔。
 お兄さんを思い出すときも、笑顔でありますように。




「…お兄さん」

『ん?』

「ありがとう」




 何だか、不思議。

『どういたしまして』

 胸の中で、何かが変わっていく。




 そうか。

 俺は、いつの間にか…お兄さんを大佐と同じくらい愛していたんだね。




『明日は、どこに行こうか』

「どこでもいいよ。お兄さんと一緒に居られるなら…」




 本当は、連れ去って欲しい。
 誰も追いかけてこないところに…2人で行きたい。

 抱きしめて欲しい。
 キスして欲しい。

 お兄さんナシじゃ生きられないくらい、依存させて欲しい。

 そう告げられたらいいのに。




「お兄さん…」

『…ん?』




 「好きだよ」

 「愛してる」

 そう言えない俺。
 逃げてるだけなんだ。




「……うぅん…おやすみなさい」

『…おやすみ』




 受話器を置いて、溜息をつく。

 願いは叶いはしない。




 お兄さんが大佐だとしても。

 もう、叶わない。




 好きだと言っても。
 言われても。




 離れてしまうから。

 離れるしかないんだ。
 それが俺の…運命だから。

 グリードに買われるから。




「…ごめんね…」

 大好きな人。