世界で一番早く朝が来る場所〜永遠〜H




 風邪が治った俺を、突然買うと言った人が居た。

 俺を診た医者。

 俺がリザさんたちに返したい金額も、店に払う金額も、そんなの軽いって。

 診察した時から目を付けていたから、是非と言われた。

 医者…グリードは、口は悪いし態度もでかい。
 でも金持ちで腕も確からしい。

 オーナーも喜んで話を薦めてくる。




「嫌だ」




 そう言って断るわけにもいかない。
 お兄さんとのは、俺の個人的な約束だから尚更。

「…少し考えさせてください」




 そう返事をして自室に戻る。
 最終的にはどうせ買われるんだ。
 なら、少しは時間を延ばしたい。




 最初から気付いてた。
 何をしても、幸せにはなれないって。




 枕を涙で濡らすのは毎日。




「……お兄さん…」




 電話に手を伸ばしても…受話器を掴むことはない。

「大佐は…どうして…俺を…好きになったの…?」




 好きになられなきゃ、きっと俺はただの娼夫として生きて、死んで…終わってたのに。




「…逢いたくなかった…好きになりたくなかった…こんなに苦しいなら…」




 こんなに苦しいなら、死んだほうがマシなくらい。

 何の罰なんだろう。




 俺は好きな人のそばには居られないの?
 どうしたら幸せになれるの?




 解らないまま時間は過ぎていく。




 グリードは急ぐわけでもなく返事を待っていた。




 これなら、お兄さんが俺を買えば。




 でも、それは無理だ。

 金額が大きすぎる。
 競りになればお兄さんが不利のはず。




 どうすればいい?

 離れればいいのかな。

 何もかも捨てようか。




 大佐にもらったものは全て捨てた。
 残ってるのは名前だけだ。




「…好き…なのに…」




 俺は…お兄さんも大佐も好き。




 一つの考えが浮かぶ。




 お兄さんは大佐なんじゃないか、と。

 だとしたら、どうして隠すの?
 俺には言えないことでもあるのかな。
 それとも、何か別の理由が?




「…ロイ…」




 あんなに愛してくれたのに…俺は裏切ったね。
 大佐が忘れていい、と言ったから。




 だからかな?

 嘘をつくのは。




 どんなに考えても解らないからやめた。




 大佐だとしても、そうじゃなくても。

 俺はあの人が好き。
 好きになっちゃったんだ…あの人を。




 ただ呼び止められただけの出逢い。

 あのときは…まだ大佐なんか好きじゃなかった。
 ちょっと気になってはいたけど。




「……死んだら…大佐に逢える…?」




 死んだら…天国には絶対行けないね。

 じゃあ、逢えないのかな。

 天国に行けば幸せになれるのなら。

 それでも全然構わないのに。




 でも。

 まだ生きていなくてはいけない、と。

 心のどこかで…思っている。




 大佐にもらったもの全てを埋めたあの岬は…遺体のない大佐のためのお墓。
 軍の合同墓地には行きたくなかったから…自分で作った。

 誰も知らないから。
 俺だけが大佐のためにお参りをする。

 お金が出来たらちゃんと作ろうかと思ったけど、まだそれは無理で。




「…守らなきゃ…」

 呟いて目を閉じた。

 指輪のない左手の薬指に口付ける。

 まだ時間はあるから。

 どうすればいいのかゆっくり考えよう。