世界で一番早く朝が来る場所〜永遠〜G




 お兄さんと知り合ってどのくらい経ったのか。

 同じ時間を過ごすとき…大佐と一緒にいる気がしていた。
 大佐には悪い気もしたけど。
 大佐なんじゃないかって…思いもした。

 でも、違うんだって言い聞かせた。
 じゃないと、逃げてしまいそうで。

 優しいし…好きなとこも沢山ある。
 お兄さんになら仕事じゃなく抱かれてもいいと思ってた。
 でも、お兄さんはいつも俺を気遣って、休ませてくれて。

 料理を教えてくれたり…本を貸してくれたり…眠らせてくれたり。

 だんだん、大好きになっていく。




 ある日お兄さんは帰り際に俺に言った。

「これから長い話を書く予定があって…本になるし〆切もある。落ち着くまでしばらく逢えない。時間が出来次第君に電話するよ」

 申し訳なさそうなお兄さんに、俺は微笑んだ。

「ホント?なら、待ってるね」

「あぁ。体には気をつけるんだよ」

「うん…お兄さんこそ無理したりしないでね。本、楽しみにしてるから」

 キスを交わして、部屋をあとにした。




 それから一週間…日々の疲れのせいか、俺は風邪をひいた。
 なかなか治らなくて、店の人が医者を呼んで診察を受けた。

 案の定疲労が溜まっていたようだった。
 仕事に支障も出るしで困ったけど。
 大人しく寝ているように言われて、じっとしていた。




 いつもなら誰かを相手にしてるのに。
 何もしていないとつまらない。




 無性にお兄さんの声が聞きたくなった。




 思わず、ベッド脇の電話に手を伸ばす。

 かけなれた番号にダイヤルして。

 3コール目にお兄さんが出た。




『もしもし?』

「…お兄さん?」

 もう昼なのに眠そうな声。
 徹夜をしたのかな。

『エンヴィー?』

「…元気?」

 驚いている声。

『あぁ。いきなりどうしたんだい?今日は仕事じゃ…』

「風邪ひいちゃって寝てるんだ。でも…何かお兄さんの声…聞きたくて」

 仕事の邪魔してごめんね、と言うと、大丈夫だよ、と笑っていた。

「具合が悪いなら寝ていなさい。早く治して、また逢おう」

 胸に広がる暖かさは、何だろう。




 好き…?
 愛してる…?




 まだ解らないけど。




「お兄さん、仕事あとどれくらいで終わる?俺…」




『只今戻りました』

 お兄さんの後ろで声がした。
 大人の女の人の声。




「…ぁ…」

『すまない、エンヴィー…担当が帰ってきてしまった。また話そう』

 慌てた様子でお兄さんは言った。

「うん…」

『風邪、早く治すんだよ』

「…うん…」

『…おやすみ、エンヴィー…』




 電話の回線が切れる音を聴いて、受話器を下ろす。




 何だか悲しい。

 変なことを考えた。

 …担当さんが女の人で…お兄さんは慌ててて…。




 枕に顔を埋めて、痛む胸をどうしたらいいか考える。

 担当さんと…何かあるのかな?
 俺と話すのはダメなのかな?




 でも、俺を選んでくれたよね?

 なら、どうして?




 いつの間にか。
 こんなに傷つくほどになっていた。

 大佐じゃない人を。
 大佐に重ねて。

 大佐に拒絶されたような気になってる。




「傍にいられる人が羨ましい…」




 段々、胸の痛みが強くなる。




「…ロイ…」




 指輪も何もかも、手放した。

 大佐のことは全て記憶の中。
 思い出せるものは何もない。

 どんな顔で、どんな声で。




 全部、お兄さんに塗り変えられてる。




「……ぁ……」




 何かに、気付いた気がした。