世界で一番早く朝が来る場所〜永遠〜F




「そういえば、お兄さんは何の仕事をしてるの?」

「…あぁ…近々新聞に子供向けの物語を連載することになっているんだ」




 軍は、准将に昇格すると言ってきた。
 だが、エンヴィーを悲しませた自分の仕事を改めて考え、辞めることを決めた。
 また戻りたいときは戻ればいい、と言われたが、戻る気はない。

 功績や退役で手にした金額はかなりのものだった。
 これから先生きていくのに、大して困りはしないほど。
 だが、何かしなくてはいけないと…そう思っていた。

 たまたま知り合いに新聞社に勤めている人がいた。
 仕事の相談をしたら、子供向けに話でも書けないか、と言われ、そうすることにした。




「凄いね。小説家?」

「いや…ただ、やらないかと言われただけだよ」

 子供向けの物語、と言っても、昔からあるお伽噺を自分なりに解釈して書くというものだった。
 エンヴィーは感心したように言った。

「それでも凄いよ。何て新聞?俺、新聞読むよ」

「ありがとう。新聞はジュール紙だ。毎週土曜に載る」

 解った、と顔を輝かせる。
 スープを飲み終えてスプーンを置くと、しばらく黙っていたが、口を開いた。

「…お兄さんは…ずっと俺と会ってくれるの?」

「…君が望んでくれるなら、ずっと会いたいが…?」

「…絶対?」

「あぁ…」

 エンヴィーは、悲しそうな顔になる。

「俺…お金貯めて返して…その後のことなんか考えてない」

 次第に涙目になって…涙が溢れていた。

「…俺とずっと一緒にいてくれる?仕事…やめるから…」

 言葉の意味を理解して…驚いた。

「いいが…何故そんな…いきなり…」

「お兄さん…大佐に似てるから…」

 胸が痛む。

「だが、君は…」

「大佐じゃなきゃダメ…ダメだけど…」

 ずっと一緒に居ることになれば、バレることは確実だ。

「お兄さんのことは…好きだし…」




 その「好き」は。
 どういう意味の?




「…大佐と居る気分になるんだ」

「私は…」




 何故言えない?




「愛してくれなくても抱いてくれなくてもいい…別に何もいらない」




 だから、ずっと一緒に居て欲しい。
 その願いは、ゆっくりと、だが確実に崩れてしまいそうな2人の関係を意味していた。




「…いいよ」




 そう言って微笑むと、エンヴィーは立ち上がってキスをしてくれた。




 何も言えないまま。

 その日は、エンヴィーに許されるぎりぎりの時間まで一緒にいた。




 自分は、エンヴィーを愛していながら。
 一度も、彼を幸せになんかしていない気がした。




 毎週水曜日。
 私の部屋で逢瀬を重ねて。

 それでも、ただ自分たちの話をしたりするだけだった。

 苦しく思う。

 時間が迫る。

 本当のことが知られてしまう。




 新聞に連載していた物語は好評だった。
 高名な出版社に、普通の小説を書かないか、と誘われたが、自信はない。
 時間が出来たときに何か持ってきてくれと言われたが、ただの退役軍人である自分には書けない気がした。




 そうやって、時間は流れていく。




 ある日、思い立って別れを告げた岬に赴いてみた。

 変わらぬ景色だった。




 ふと見ると、誰かが木の根本に、もう萎れていたが花を添えていた。




「…エンヴィー…?」

 ここに来ているのか。

 気になって、ハボックの家からシャベルを借りて、木の根本を掘り返す。
 しばらく掘ると、大きな木の箱が出てきた。




「……だから……」




 箱の中には、何重にも木の箱で覆われた…エンヴィーに贈ったものが全て入っていた。

 服も、靴も、麦わら帽子も、全て。

 自分に何かあったら、と埋めておいたものまで。




 エンヴィーは全て捨てたと言っていた。
 捨てたわけでは、ないのだ。

 彼は、忘れようとはしていなかった。

 それが、自分の犯した罪の強さ。




 忘れていい、と言ったのは、自分が死んだ場合。
 今生きている自分。

 彼は、心のどこかで生きていると信じているのだろうか?




 ガラスの小瓶には、小さな紙と指輪が入っていた。

 紙には「Roy Mustang」の文字。




 涙が頬を伝う。

 私は彼に何もしてやれなかった。
 別れるとまで告げた。
 それでも、好きでいてくれた彼。

 幸せにしてやりたいと思った。
 たとえ自分の手ではなくても。

 エンヴィーが笑っていられる未来を。

 自分では、彼を傷つけてしまうことが明らかだから。