世界で一番早く朝が来る場所〜永遠〜E




 エンヴィーを抱き上げタクシーを拾い、悪いとは思いつつも自分の部屋に連れ帰った。

 久し振りに抱いた彼は…以前より軽いような気がした。

 以前も、突然気を失ったことがある。
 彼の癖なのだろうか。




 自分より一回り以上小さな彼。
 細い身体。
 白い肌。
 黒くて長い髪。

 人形のように綺麗な顔は、ぱっと見性別が解りにくい。

 彼のどこに惹かれたのかは…未だに解らない。
 だが、それでいいと思う。

 ただ、笑わせたかった…幸せにしたかった…それだけだ。

 だから、泣かせたくなかった。

 自分のことで泣く彼を…ただ、守るだけではいけない。




 自分の部屋のベッドにエンヴィーを寝かせ、溜息をつく。
 まだ表札もないし自分がロイであると解るものは特にない。

「…エンヴィー…」

 名前を呼んでも返事はない。
 まだ起きる気配はなかった。




 窓の外を見るとまだ日は高く、明るい。

 ふと空腹感を覚え、朝にトーストを一枚食べたきりだったことを思い出す。
 何か食べるものを用意しようとキッチンに立った。

 エンヴィーも…目を覚ませば食べるだろうか。




 気付けば、彼の好きなものを知らない。
 以前ビーフシチューを頼んだとき、嬉しそうだった記憶はある。
 だがそのくらいだ。




「……大切にしていたつもりだったんだがな…」

 好きという感情。
 愛だけでは足りない。

 彼について何も知らない自分が居た。

 誕生日と血液型は知っている。
 だが、趣味などは知らない。

「…ダメだな…」

 深く溜息をついて自嘲する。




 彼の恋人という地位に満足していた。
 私は彼を好きだった。
 彼も私を好きでいてくれた。

 そのまま、流れだったのだろうか。

 誰に責められることでもないけれど。
 ただ少し。
 罪悪感が芽生えた。

 彼のことを愛しているだけでは、何も変わらない。
 解らないことばかり。

 彼の気持ちを考えていないのと同じだった。

 だから…独り善がりで別れてしまったのだ。




 ミネストローネスープを作り、エンヴィーの様子を見に行った。

 まだ眠っている。

「…エンヴィー…」

 エンヴィーの顔に冷やしたタオルを当てる。
 すると、少しだけ身体を震わせて目を開いた。




 私を認めると驚いたように目を見開き、そしてまた悲しそうな顔に変わる。




「…お兄さん…」

「…突然倒れたんだ…大丈夫か?」

「……ぅ…ん…」

 体を起こして、辺りを見回す。

「…ここ…お兄さんの部屋?」

「あぁ」

 不思議そうに部屋を見る。

「…初めてかも。仕事以外で人の部屋のベッドに寝るの」

「…へぇ…そうなのかい?」

「大佐の部屋にも行ったことないよ」

 そういえばそうだ。




「…お兄さん…お腹空いた…かも…」

 しばらく部屋の中を見回していたが、エンヴィーは小さく呟いた。

「あぁ…スープがある。食べようか」

 頷いて、エンヴィーは立ち上がった。

「そこに座っていなさい…」

 エンヴィーをキッチンにある椅子に座らせると、スープの入った皿をテーブルに置く。




「美味しそう…」

「…そうか?ありがとう…」




 エンヴィーはスプーンを持ち、いただきます、と呟いた。

 無言のまま、飲んでいた。

「……お兄さん…コックさん?」

 しばらくしてエンヴィーが顔を上げた。

「いや…?」

「…凄く美味しい」




 笑顔を見せた。

 その笑顔が、嬉しい。