世界で一番早く朝が来る場所〜永遠〜D




 エンヴィーは、水曜は仕事が休みだと言っていた。
 ほかの日は朝から入ったり夜だけだったり不定期だという。
 多ければ1日に4人相手にすることもあるらしい。

 エンヴィーを抱くのには50万かかる。
 それは、彼が自分で決めたことだと言っていた。
 今までの自分の経験やオーナーの考えもあり、そうなったらしい。
 それに、それでも抱きたいと願う人がいるのも、エンヴィーの価値を高めているようだ。




 嫌だとは思う。

 エンヴィーは、自分の大切な人なのに。




 だが、今自分はただの客だ。
 別れてしまったのだから、ロイ・マスタングだとしても、恋人ではない。

 彼が優遇されるのは、昔居た店でも価値があったからだと言っていた。

 それに、女性にも男性にも見える彼の容姿が…金のある男を惹き付けているのかもしれない。




 自分の正体も、何も伝えられないままでいる自分。
 伝えれば、彼を傷つけてしまうことは明白だった。






 3日後の水曜日、新しく借りた部屋に引いた電話は、一番初めにエンヴィーにかけた。

 教えてもらった番号にかけると、まだ昼間だから寝ているかと思ったが、すぐにエンヴィーが出た。






『…はい…』

 ダルそうな…疲れていて元気などなさそうな声だった。
 泣いていたのか、少し嗚咽が聞こえた。




「…エンヴィー…?大丈…」

『大佐…?』




 エンヴィーが息を飲むのが解った。

『…ぁ…』

 すぐに思い直したのか大きく溜息をついていた。




『…ごめんなさい…』

「いや…いいよ」




『お兄さん…電話使えるようになったんだね…』

 エンヴィーはさっきまでより元気な声でそう言った。

「あぁ。番号を教えるよ。好きなときにかけてきていい。夜なら大抵出る」




『うん…』




 嬉しそうだが、どこか暗い。




「体は大丈夫か?無理はしないようにするんだよ」

『大丈夫…だよ。ただ…あの人の夢…見たから…』




 あの人。
 私。




「…そうか…」




 沈黙が続いたが、しばらくしてエンヴィーが口を開いた。




『…ね…お兄さん…今…空いてる?』

 恐る恐る訊ねてきた。

「空いてるよ。どうかしたかい?」




『一緒に…居たい…』




 消えそうな声で。




「…エンヴィー?」

『独りに…なりたくない…一緒に居て…お願い…』




 迎えに行くから、と言うと、うん、と小さな声で答えた。
 ガトーの、色町ではない駅の入り口で待ち合わせ、支度を済ませすぐに向かう。




 膝に頭を伏せて座っていた。
 向日葵の花を一輪持って。
 それを見たとき…一年前のことを思い出した。




 さよならを告げるために、居場所など知らないのに私を探していた。
 店の前で、向日葵の花を持って…座っていた彼を。




「エンヴィー」

 名前を呼ぶと、ゆっくりと顔を上げた。

「……お兄さん…」

「大丈夫か?何かあったのか?」

 訊ねると、首を振る。

「…逢いたかったの…独りは…嫌で…」




 今にも泣きそうなエンヴィーは、立ち上がって抱きついてきた。




「…お兄さんが…大佐ならいいのに…」

 聞こえた言葉は、より嘘を大きくした。




「……大佐……」




 じわりとシャツが濡れた。

「…逢いたい…」




 そう呟いた直後、エンヴィーの体から力が抜けた。