世界で一番早く朝が来る場所〜約束の場所へ〜D




「大佐、ね、デートしよう?」

 自分にもスパゲティを作って、食べ終わってすぐ、そう言った。

「あぁ、いいよ」




 別に何をするでもなく大佐と過ごしたくて、了解を得られたことが嬉しかった。




「エンヴィー、大佐とデートするのは構わないが…8時には帰ってくるんだぞ」

 ジャンさんにそう釘を刺された。

「はぁい」

 苦笑すると、頭を撫でられる。

「大佐相手だし、お前たちの間はよく解ってるつもりだけど…一応な」

 父親ではないけれど、父親の立場として俺を心配してくれる。

 父親の記憶なんてほとんどない。
 ジャンさんは大佐と同じ歳だけれど、何だかお兄さんな雰囲気。
 リザさんは、お姉さんみたいな感じ。

 本当の両親ではないけれど…親、っていうより、歳の離れたお兄さん、お姉さん、みたい。




「じゃ、行ってきまーす!」

 エプロンを外して、大佐と家を出た。

「暑いね」

 歩きながら手で陽の光を遮りつつ大佐を見る。

「あぁ、まだ日差しも強い」




 白いシャツを着た大佐が、眩しくて目を細めてしまう。




 何となく大通りに向かいながら、2人で歩く。

「あぁ、エンヴィー、この日陰で待っていなさい」

 帽子屋で大佐が立ち止まり、俺を残してさっさと中に入っていく。




「何買うんだろ」

 不思議に思いながら大佐が戻ってくるのを待つ。

 明るい外。
 少し前までは、昼間はあまり外に出歩きはしなかった。




 暑いな、と溜息をつくと、頭に何かが被せられた。

「ふにゅ?」

 後ろを振り返ると、大佐が見えた。

「麦わら帽子だよ。日に焼けると困るからな」

 頭の上のものを取ると、確かに麦わら帽子だった。




「…ありがとう…」

「よく似合うよ」




 大佐が幸せそうに、嬉しそうに笑うから…胸が苦しくなる。

 いつまで一緒にいられるのか。
 いつまで俺を愛してくれるのか。

 気にする必要も理由もないのに、たまにそう思う。




「エンヴィー、どうした?」

 麦わら帽子を抱きしめて俯いていると、大佐が心配そうに覗き込んできた。

「…うぅん…何でもないよ」




 首を振って麦わら帽子を被って、大佐に笑いかける。
 今が幸せならいい。

 今はそれでいい。




「そうか?」

「それより、どこに行く?」

「何か欲しいものはないか?買ってあげるよ」




 欲しいもの、と言われても特にない。物欲はあまりないからかもしれない。




「…ない…かなぁ…」




「…そうだ…指輪を買ってあげよう」

 大佐が、呟いた。

「…指輪…?」




「あぁ。まだ君にプロポーズもしていないし早いが…婚約指輪でも…」

 優しく微笑まれて。




「でも、そんな…俺、だって…」

「何を気にする?心配はいらないよ」




 ジャンさんたちにもちゃんと大佐とのことを言わなきゃだし、大佐の家族にも…挨拶…しないと。
 でもその前に、男同士だし…許されるのかどうなのか。
 頭の中でいろんなことがぐるぐるする。




「おいで」




 混乱したまま、大佐に手を引かれて「Le Ciel」と書かれたドアの宝石店へ入った。