世界で一番早く朝が来る場所N
しばらくいろんなことを考えていたけど、起きあがって大佐が居るはずの部屋を覗いてみた。
大佐は何か仕事をしているようだった。
「…お風呂…入りたい…な」
ドアを閉めて呟いた。
荷物を開けて着替えを出して、ゆっくりとドアを開いた。
「…エンヴィー?」
顔を上げた大佐は不思議そうに俺を見て、荷物に目をやり、あぁ、と声を出した。
「…夕飯はどうする?何か食べたいものはあるか?」
「…別に……」
食べられれば文句はない、けど。
「…好きな食べ物は何だ?」
大佐が、苦笑して言った。
「…えと…何でも好き…だけど…」
「…じゃあ、ビーフシチューを頼もうか」
手元にあったらしいルームサービスのメニューを広げて、笑う。
「…う…ん」
「頼んでおくから、入浴を済ませておいで」
大佐は電話をかけるために立ち上がり、俺の頭を撫でた。
「…はい…」
何だろう、やっぱり違う。
父親に撫でられているような気がする。
昔は、大佐に撫でられるのが、好きだった。
今は…一人の…大佐を愛する人として…大佐が愛する人として、見て欲しい。
…大佐は…俺のこと、ちゃんと好き…だよね…?
不安になりながら、浴室のドアを開けた。
風呂は好き。
汚いものを洗い流してくれるから。
人に抱かれるようになってから、好きになった。
精液も。
唾液も。
汗も。
自分以外のもの…体に触れるものを、洗い流したくて仕方なかった。
大佐は、汚れた俺を抱いてくれるだろうか。
こんなことを願うなんて、悪い気がするけど。
「…バカみたい」
シャワーを浴びながら呟いた。
浴室を出て洗面台の鏡を見つめて。
「…長い髪…顔も女っぽいし…」
だから、あんな仕事できてたんだけど。
長い黒髪をタオルで拭きながら、あの頃を思い出す。
望みもしない毎日。
性交ばかりの日々。
口に残る苦くて熱い液体。
唯一の救いは、必ずゴムをつけさせていたこと。
使いものにならない商売道具にされちゃ困るから、と主人が決めていた。
それ以外ならば何をしてもいい。
だからか、客は金持ちの変態ばかりだった。
今思えば、それなりに楽しかったのかもしれない。
だけど。
今更戻りたくなんかない。
大佐と…生きていきたい。
いつになってもいい。
大佐が好きだから。
この世界で、一番早く…俺にとっての朝が訪れる場所。
今までの嫌なことなんか忘れられる。
「エンヴィー」に、生まれ変われる。
大佐の傍にいれば、明けない夜はない。
一人になりたい夜もない。
望まない行為をされることもない。
これはワガママだって解ってる。
大佐と、離れるのも解ってる。
でも、迎えに来てくれるって言った。
だから…今夜だけ。
ずっと、一緒に居させてください。
髪を乾かして。
パジャマを着て。
大佐の居る部屋に。
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