世界で一番早く朝が来る場所L




 養子の手続きも全てすませて、引っ越しの日はあっという間に来た。

 大佐に、挨拶なんか出来なかった。




 あの日から、一度も逢わなかった。




 …会いに行けないし…名前以外何も知らない。
 リザさんたちに聞けば解ったんだろうけど。






 出発は3時と聞いて、午前11時、俺は散歩に出た。




 こうして、何でもない風に歩いていれば大佐に逢えるかもしれなかったから。




 それでも、そう簡単に逢えるわけもなくて。

 正午、大佐に拾われた、ショーウィンドウの前にまた座り込んだ。




 今度は、一輪の花を持って。




 店先で黄色を輝かせていた向日葵。




「拾ってください」




 膝に顔を埋めて小さく呟いた。




 俺を拾って欲しい…あの人。




 せっかく、買ってくれたワンピースを着て…靴を履いてここに来たのに。




 大佐に、言いたいことがあるのに。

 時間だけがただ過ぎていく。




 逢えないのかな?




「…逢いたい…よ」






 呟いても、大佐に届くことはない。




 ワンピース…エドワードたちも、似合うと言ってくれた。
 でも、大佐に言われたときが一番嬉かった。






 ぼぅっとしていると、少し光が遮られたことに気付き、もしかしたらと顔を上げた。








「………」








 お互い、見つめ合うしかなかった。






「…どこに…行ってたの?」




 ようやく口を開けば、掠れた声しか出なくて。




「…君を…助けられない自分が嫌で…自己嫌悪に陥っていたよ」




 大佐は、困ったように答えた。




「…もう…助けてくれなくていい」




 涙が流れた。




「俺…今日、この街を出る」




 大佐は目を見開いた。






「養子になった…リザさんとハボックさんの」

「…リザ…まさか…」

「…お別れ、言いたかったんだ」




 立ち上がって、涙を拭いて、向日葵を差し出した。




「…あの日…引き留めてくれてありがとう」

 大佐の腕…今でも思い出せる。

「服も靴も…ご飯も、ありがとう」

 大切にしてるから。

「……もう…行くね…さよなら…」






 大佐の手に無理矢理向日葵を握らせて、走った。






 お願い、追いかけて来ないで。






 そう願っても虚しく、大佐にすぐ捕まって。






「…どうして…逃げるんだ?」




 人通りの少ない道の建物の壁に追いつめられた。




「…大佐は…自己嫌悪に陥ってればいいのに…!俺は…っ…」






「…好きだ…」






 耳元で囁かれた言葉は…胸を締め付けた。




「…愛してる…エンヴィー」




 頬に触れる温かい手。
 俺を見つめる、真剣で…優しい眼。




 今まで、気付かない振りをしていたのに。

 気付きたくなかった。

 大佐が…俺だけを愛していること。

 俺の事を、見ていること。




 俺が大佐を好きな事を認めても、大佐が俺を好きだと、認めたくなかった。

 大佐には、俺なんかよりももっと相応しい人が居るはず。

 でも。




 その人を押し退けてでも、俺はこの人と一緒に居たいと。

 願ってしまった。




「…離れる君を引き留めるわけにはいかない…」




 どうして…?
 引き留めてくれたら…ずっとここにいるのに。




「や……」

「…君を幸せに出来る自信が持てたら…必ず迎えに行くから…」




 驚いて大佐を見ると、突然口付けられた。




 優しいキス。
 暖かい大佐の唇。




 髪を梳く指。






「…っ…ん」






 大佐の舌と俺の舌は、何かを言い合うように絡み合っていた。




 気持ちよくて…愛しくて。
 大佐の腕の中で…意識が途絶えた。