世界で一番早く朝が来る場所K
自分の部屋にある数少ない荷物をまとめた。
リザさんとハボックさんの元に、しばらくお世話になろうと決めた。
養子にならずとも、娼館を出ても行くあてのない俺には、いい話だった。
きっとあの人たちなら俺を自由にしてくれるから。
主人はその話をすると苦笑していた。
「いいんじゃないかしら?あんたはどう見たって娼婦になんか見えないから」
お金は売買の証拠が残らないように主人と購入者でどうにかするそうだけど。
俺は知らなくていいらしい。
長い間暮らしていた部屋に、昼前、別れを告げた。
「…未練がないなんて言ったら嘘になる…」
ここにいたから、エドワードや大佐と知り合えた。
あの日、街で大佐に出会わなかったら、俺は今頃どうしていただろう。
今、何処にいたんだろうね?
きっと、あの日。
大佐が俺を見つけたあの日。
死んでいたんじゃないかなって…思う。
この世に希望なんか持てずに。
野垂れ死んだり、自害したり。
絶対にそんなことはないなんて言い切れない。
部屋のドアを閉めて娼館を出た。
リザさんたちが居るホテルへ向かう。
何故か、胸がドキドキして。
逢いたくて。
あの人に、会いに行くかのように。
…逢えたら、言いたいことがある。
「来たのね」
来るのが解っていたかのように、リザさんがホテルの前に立っていた。
「はい…でも…」
養子になる気はない、と告げようとしたとき。
「私、あなたは養子になった方がいいと思うの。その方が自由だわ」
あなたはまだ子供なんだから。
そう続いた言葉は、何だか俺の心を満たして。
俺は思わず俯いた。
「部屋へ行きましょうか」
昨日と同じ部屋に行くと、ハボックさんたちは居なかった。
「…どうして…?」
「エドワード君たちの手続きをしているから」
そうか、と頷いて。
「ねぇ、あなたのことは何て呼べばいいかしら?」
俺をソファに座らせてリザさんが首を傾げた。
「…前の名前には未練なんかないから…大佐がつけてくれたエンヴィーがいい」
エンヴィー。
大佐がつけてくれた俺の名前。
「あなたは、ロイのこと、好き?」
リザさんが笑った。
「俺…」
俺は大佐のことが好きだ。
人に言われても、否定しきれないほど。
「好き…好きだよ。立場とか、性別とか…気にはなるけど、大佐のこと、大好きだ」
どうかしてる。
いきなり認めたくなるなんて。
大佐を、好きだなんて。
でも、理由があるんだ…大切な。
小さいときからの、夢が。
「…来週、この街を出るわ」
呟かれた言葉に反応した。
「え…」
「隣街になるけれど…挨拶をしたいのなら、早くした方がいい」
優しく頭を撫でられ、少し淋しくなった。
大佐と離れる。
今でさえ遠いのに。
リザさんは申し訳ないって言ってるみたいに、抱きしめてくれた。
「そういえば、どうして事務所じゃないんですか?」
しばらくして、俺は口を開いた。
「あそこは借りものだし、引っ越すから散らかっているの」
苦笑したリザさんは可愛くて。
どうして大佐はリザさんを選ばなかったんだろう。
その後、帰ってきたハボックさんたちと一緒に、リザさんが作った夕飯を食べて。
家族って。
暖かいんだって…思い出した。
|