世界で一番早く朝が来る場所I
「ホークアイ、という苗字に…聴き覚えがあるでしょう?」
そう訊かれ、頷いた。
「ロイは、私の家に婿養子として迎えられることになっていたの。だからロイ・ホークアイって名乗ったのよ」
だから聴き覚えが。
「事故の内容は、言うべきじゃないのかも知れない。でも、あなたのために言うわ」
一呼吸置いて、話が始まった。
「事故は、突然やってきた。私とロイ、2人で山へ遊びに行ったあの日」
辛そうな顔をして、話すリザさん。
「乗馬をしていて…私の馬がウサギに驚いて言うことをきいてくれなくて…ロイは助けてくれたの」
大佐なら、やりそうなことだ。
「その時…私を助けたのはいいのだけれど…ロイが落馬してしまった」
想像なんかできない。そんなこと。
「その時、ロイは記憶を失ってしまった」
「…記憶を…?」
「自分がロイ・マスタングであることは解る…なのに、それまでにあった…2年近くの私との思い出は、なくなってしまった」
それは辛い。
「だから、婚約破棄。私は、彼以外の人と結婚する気になれなくて家を出た」
それほどまでに…大佐の事を、思っていたんだ…。
「事故の後ロイに言われたわ。『記憶をなくしてすまない』って。でも、謝られても両家同意のもとに破棄された婚約は変わらない。それに、彼は私を愛していなかった」
リザさんは苦笑した。
「どうして、そう思うの?」
「だって、その時彼はまだ青年なのよ。親の決めた相手。彼の夢もあるでしょう。優しかったけれど、それが少しだけ辛かった」
リザさんの瞳は、仕方ない、と言っていた。
「でも、良かったと思っているの。私は今…ここにいられるから」
ハボックさんを見て、嬉しそうに笑うリザさん。
「でも」
エドワードが呟く。
「こいつの名前が解ったのはいいけど、家もないし、帰れないし…オマケに大佐なんて」
俺にはどうしようもない、運命。
「どういうこと?」
リザさんが首を傾げて俺たちを見た。
「…ロイ・マスタングは大佐でしょ?」
「えぇ、今は」
「こいつはこの前大佐と知り合ったらしいんだけど…大佐は、こいつを好きで、助けたいと思ってるんだって」
俺は、逃げ出したかった。
認められていたとしても。
大佐を思うなんて。
「大佐は、あなたを好きになったのね」
優しく微笑むリザさんは、恨んだりさげすんだりしなかった。
「解る気がするわ」
「え?」
「昔から、あの人はあなたが好きだった。忘れても、忘れきれなかったのよ」
大佐が、俺を好きだった?
「避暑地であなたと遊んでいるときは彼そのものだったし…帰ってくれば、あなたの話が絶えなかった」
俺の知らない場所で。
「最初から惹かれていたのね」
「でも、何で?」
尋ねると、苦笑して。
「好きだという気持ちに理由があったら、きっと本当の好きじゃないわ」
だから。
リザさんも、大佐を簡単に諦められたんだ。
ハボックさんのそばにいるんだ。
今は、幸せなんだ。
アルフォンスとエドワードが、帰り、送ってくれた。
「なぁ、アンヴィ」
発覚した本名で呼ばれることはかなりくすぐったいけど。
「大佐にさ、言う?」
「言わない」
何を、なんて言われなくとも解ってる。
「それで、いいの?」
アルフォンスまでそんなことを。
「…今は、逢えないよ…ごめん」
紅い空。
大佐も、同じ空を見ているだろうか。
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