世界で一番早く朝が来る場所D
今まで仕事で連れてこられた店のどこよりも高いって、解る。
「そんな決まりはないな。別に君を買ったわけでもないし」 「ただ連れ回してるだけだって?」 「そういうことだ」 軍人は、笑うとまだ子供みたいな幼さを残していた。 「冷めてしまう。食べたまえ」 すすめられて、ナイフとフォークを手に取った。
デザートを待っているとき、そう尋ねた。 「一目惚れ」 「あ?」 「本当だよ」
「あの日、君を見た瞬間、唐突に理解した。私は、君に逢うために生まれてきたんだと」 クサい台詞を堂々と吐けるこいつは、自分の目の前にいる俺がどんな存在なのかを忘れているに違いない。 じゃなきゃ、これはただの夢だ。 「それで…?」 「君についてよく知りたいと思って声をかけたんだ」 そしてこの再会。 「なら、解るだろ?名前もない、元奴隷の現娼夫。そんなこと言われたって、俺はアンタに逢うために生まれてきたとも何とも思っちゃいないよ」 俺が望んでいるのは、こんな奴との出会いなんかじゃない。 「構わない。こうしていられればそれで」 そう言ってアイスクリームをスプーンで掬って口に運ぶ。 「そういえば、まだ名乗っていなかったね。私はロイ・マスタング…大佐だ」 大佐。 「君には名前がないそうだが、本当かね?」 「本当…っていうか、忘れた。みんな好き勝手呼んでくるから……」 「店では何と呼ばれているんだ?」 「…50」 娼館では、金額で呼ばれてる。 「…なら、私がつけよう」 「え?」
「とても似合う名前だと思うのだが」 不思議と、その名前を気に入ってしまう自分がいた。
「また、逢えるかな」 大佐が、言った。 「逢いたいなら買いに来ればいいよ…俺を」 「個人として逢いたいんだがな」 「…別に…」 嬉しいような、何だか不思議な気持ちが胸に溢れた。
目の前に大佐の顔があって。 ゆっくりと唇が塞がれた。
「また、逢えるようにおまじない」
それだけで。 羨望される存在。
|