世界で一番早く朝が来る場所A




 娼館で働き始めて。
 毎日不特定多数の男に抱かれるようになって一年近くして、俺は出会った。

 好き好んで…性欲のためではなく、俺に近付こうとする奴に。

 そいつは言った。

「一目惚れ」

 だと。

 出会いは突然。

 街で擦れ違った時、いきなり腕を掴まれた。

「何…」

「君…」

 そいつは軍服を着ていて…一目見てエリートだと解る容姿だった。

「何?急いでるんだけど」

「君…名前は?」

 いきなり不躾にも名前を訊いてきた。

「…名前なんかない」

 自分の名前なんて、忘れた。
 みんな好き勝手呼んでくるから、どうでもよくなったんだ。

「もういい?次の客が待ってる」

「…娼婦?」

「違う…娼夫、だよ」

 俺は得意の「笑顔」をそいつに向けて、客の待ってるホテルに向かった。




 一体あいつは何がしたかったんだ?
 名前を訊いてくるなんて。

 あぁ、そういやあいつ軍人だったな。
 失礼な態度をとったけど、何も言われなかった。

 言われて、殺されてもよかった…かな。
 この世と離れて自由になれそうだ。

 生まれ変わって、来世で自由に。




 ホテルに着いて、客の男に抱かれる…のに、何故か街で出会ったあの男が頭から離れなかった。

 客の男は中年の、何かの会社の社長らしい。

 顔も覚えてない。
 名前なんか知らない。

 そいつは、俺を「マリア」と呼んだ。
 俺は「マリア」としてそいつに抱かれた。

 しつこいだけで、全然よくなんかないSEX。
 喘いでるふりして、あいつのことを考えていた。

 どうしても気になるんだ。




 終わった後、社長さんは規定通りの50万を俺に渡した。

「また頼む」

 そんなことを付け足して。

 頼まれたくもない。
 もっと上手くなって出直してこい。




 金を持って、ホテルを出た。

 そのままどこかへ逃げたいと、いつも思う。
 でも、無理だ。
 逃げられない。

 逃げてるうちに店のやつに見付かって、捕まってしまう。

 だから、逃げるためには俺が俺を永遠に買うしかない。
 でも、そんなこと、無理だ。
 貯めようにも、俺には金なんか必要ないからって、もらえない。

 じゃあ、どうすればいい?

 どうすれば、俺は自由になれる?

 本当の、自由に。

 いつ、なれる?