グラスに口づけしてごらんよ ---2005/5/29 |
| 注文を済ませて、料理が届くまでの間、中尉は何も言わなかった。 注がれたワインに手を伸ばして、ようやく口を開く。 「………すみません」 「それは何に対しての謝罪かな?」 訊ねると、俯いて答えた。 「私は…大佐を傷つけました」 本当に申し訳ない、と思っていることが伝わってくる声だった。 「私は傷つけられた覚えがないが…」 「そうでなくても、私は……っ……」 顔を上げた中尉と目が合う。 「……あの、言葉かね?」 「無能」と言ってしまったこと。 「………はい」 また、俯く。 「嘘ではないし…まぁ、最初は驚きはしたが、いつまでも気にする私ではないよ」 「でも、傷つけました」 弱い声。 「………すみません」 黙ってしまった中尉に、声をかけた。 「中尉」 「はい…」 「アレは君の本心かね?」 「…違います」 呟くように言われた言葉に、ほっとした自分がいた。 「だが思っていたことは事実だろう?」 「違います!私は、大佐を無能だなんて思っていません!」 また顔を上げた中尉は、真剣な顔をしていた。 「雨の日には確かに大佐は焔を出せなくなります。ですが、無能だなんて…!」 さり気なく無能が連発されていた。 「………ちょっと、癪だっただけです…」 最後に放たれた言葉に首を傾げる。 「癪?」
「いえ…あ…すみません…」 中尉は、知っていたのか。 「私は…ただ…ヤキモチを………」 その言葉を聞いて、顔を上げた。 「あの映画……私、見たかったんです…大佐と…」
頬を染めながら言う中尉は、誰よりも可愛かった。
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