グラスに口づけしてごらんよ
-2-

---2005/2/1

 あの日、中尉は言った。

「無能」

 と。

 そう言われてショックだったのは事実だが、確かにそうだと思った。
 火は水に弱い。
 雨の日には意味を成さない自分の得意技。

「雨の日は無能、か」

 そしてあの日から、何故かどこか余所余所しい。

「気にしていてくれたらいいのだがね」

 一人呟いて玄関に向かう。

 中尉はすでに待っていた。




「では、行きましょうか、大佐」

「あぁ」

 何も話さずに、夜道を歩く。
 行きたい店は決まっているものの、会話はなかった。

 ある程度店に近付くと、中尉が口を開いた。

「…もしかして、Le Cielですか?」

「あぁ」

 私がよく行く店の名前。
 中尉を連れて行ったことはない。
 むしろ、誰とも一緒に行ったことがない。

 とても気に入っているのだ。

「大佐が、よく行くお店ですよね」

「何故知っているんだ?」

「よく、大佐のコートから領収書が出てきますから」

 素っ気なく言い放つ。

「そうか」

「一度…行ってみたいと思っていたんです」

 ぽつりと呟く中尉。

「丁度良かった。とてもいい店だ、君もきっと気に入るよ」

 私が気に入った店だ。
 それに。

 中尉と行きたいと思っていたから。

「…はい」

 少しだけ困った様子の中尉。
 それが何故なのかが、とても知りたかった。

「中尉…?」

「大佐…私…」

 何かを言いかけるが、中尉は口を閉ざす。

「最近君は以前のようにはっきりとものを言わないが…どうかしたのかね?」

「それは…私…が…」

 その続きは、店に着いてしまったことで聞くことが出来なかった。

「あぁ…着いたね」

 中尉が何を言いたいのか。
 聞きたかったのに。




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