ねここねこ*2*
 あれから何日か過ぎたが、砕蜂は上の空であることが多くなった。
 市丸はあれ以来砕蜂を訪ねない。

「砕蜂隊長」

 訪ねた卯ノ花が名前を呼ぶと、はっと我に返る。

「あぁ…何だ?」

「…どこか具合でも悪いのですか?」

 砕蜂は心配そうな顔をする卯ノ花に、何でもないと言いかけてやめた。
 きっと無意味だろうし…何より自分がおかしいことは解っていた。

「…私は…やはり病にかかっているのだろうか」

「何故、そう思われるのですか?」

「…ある男に、好きだと言われて…それからおかしい」

 彼を想うと胸が苦しくなり、どうすればいいか解らず上の空になってしまう。
 あれ以来市丸が訪ねてこないのも原因かもしれない。

「…あなたは…その方をどう思っているのですか?」

「…どう…?」

 気に入っているとは彼に告げたし、実際そうであることに変わりはない。
 だが、好きだと言われて返事をしないままでいる。

 「…したいようにすれば…何も間違いはないでしょう」

 そう言うと、卯ノ花は出ていった。
 返事をしたいとは思うが、何と言えばいいのか未だに解らない。

 恋愛とは縁遠いと自分で思っていた。
 遠いあの日に憧れたあの人への想いは、少し恋愛に似ていたかもしれない。

 そう考えて、慌てて振り払うように頭を振った。

「…忘れるんだ」

 呟いて、執務に集中した。

 それから一週間後、執務室の戸を叩く者がいた。

「入れ」

 書類に目を通しながらそう言うと、しばらくぶりに聞いた声に驚いた。

「失礼、砕蜂ちゃん」

「…市丸…」

 机の前に立った市丸に見下ろされる。
 砕蜂は俯いた。

「…何か用か」

「砕蜂ちゃんの顔が見たぁなってな」

 くすくすと笑う声に少し恥ずかしくなったが、机の上に置かれた市丸の左手の指をじっと見つめた。

「…そうか」

「顔、見せて?」

 不意に市丸の右手が砕蜂の顎を掬った。

「…相変わらず…可愛えなぁ」

「…その言葉は聞き飽きたぞ」

 砕蜂は飽きてはいないのに…むしろもっと言って欲しいとさえ思っていたのにそう言ってしまった。