ねここねこ*1*
「…河童」

「鋼」

「…猫…」

 砕蜂の答えに、市丸は返さなかった。
 しばしの沈黙。
 仕事中の砕蜂が書類に何か書き込む音だけが部屋に流れる。

「……市丸?」

 寝てしまったのか、とソファに座っているはずの市丸を見ると、市丸はじっと砕蜂を見つめていた。

「…どうした」

 視線に気づかなかったことを、砕蜂は恥じた。
 それだけ、彼に見られていることに慣れてしまったのかもしれない。

「ん〜…?」

 市丸はにっこりと笑って言った。

「なんや、砕蜂ちゃんは猫に似とるなぁ思てな」

 砕蜂は言葉の意味を理解出来ずに市丸を見ていた。

「気紛れやし、猫にそっくりや」

「…猫…」

 自分がそうだと思ったことはなかった。
 市丸に言われて、そうなのか、と初めて考える。

「まぁ、ボクがそう思うだけや、気にせんといて」

「…いや…」

 市丸に、少しだけ笑顔を向けた。

「お前は面白いことを言うな」

 気紛れ。

 自分は確かに似ているのだ。

 気紛れで市丸と付き合う。
 大した用もないのに訪ねてきたり何かと誘ってくる彼を、煩わしく思うこともあまりない。

「市丸」

「はい?」

「…私はお前が気に入ったようだ」

 砕蜂の言葉に、市丸も笑顔で言った。

「ボクは昔っから君のことが好きや」

 市丸はソファから立ち上がり、砕蜂の傍まで行き、不思議そうな顔を向けるその唇にキスをした。

「…い…ちま…」

「ほなまたな、二番隊長さん」

 真っ赤になり硬直している砕蜂の頭を撫で、市丸は執務室を出た。

「…可愛い子猫ちゃんやなぁ」

 市丸は笑顔だった。

「…好き…?」

 砕蜂は机に突っ伏して呟いた。

 好きだと言われた。
 嬉しいと思う。
 しかし、自分は彼をどう思っているのか解らない。

「…市丸…」

 彼も猫のようだ、と砕蜂は思った。