第3話 子
 朝食を用意していてふと気づく。
 小十郎には何をやればいいのか。
 ミルクだけでいいはずはない。

「やっぱ魚か?」

 ソファの上で横になりながら朝のニュースを眺めている小十郎を振り返る。

「…猫は肉とかも食うんだよな…」

 料理は得意だが、朝はいつも何も考えていないため、白米と味噌汁と昨夜の残りの卯の花しかなかった。




「何が好きなんだろ、こいつ」

 溜息をつきながらテーブルに朝食を並べる。
 小十郎には少しだけ温めたミルクをマグカップで出すことにした。




「小十郎、おいで」

 テーブルについて小十郎を呼ぶと嬉しそうにソファから降りて隣にちょこんと座る。

「お前、何が好きなんだ?」

 猫を飼ったこともなく何も解らない。

「にゃあ?」

「猫だから魚は好きなんだろ?」

「みゃ」




 頷きながらテーブルを見るが魚はない。




「みゅう…」

「あとで買ってきてやるから…」

「にゃん」




 にっこり微笑んでテーブルの上の朝食を珍しそうに眺める。

「ほら、これ飲んでみろ」




 小十郎の前にミルクの入ったマグカップを置く。

「こうやって飲むんだよ」

 自分用の水の入ったカップを持ち上げ飲んでみせる。

「解ったか?」

「みゃう」




 両手で持ち上げ、同じようにして飲む。
 が、口の端から零れていた。




「ちょ、小十郎!」




 慌ててカップを取り上げる。
 白いミルクが口の周りについていて、更に何も解っていない小十郎の口から首を伝ってシャツを濡らしていた。




「…仕方ねぇな…」

 口や首を拭き、濡れたシャツを脱がし新しくまた着せた。

「…飲めたのか?」

「みゅ」




 頷き、茶碗に盛られた白米を見つめる。

「これ食うか?」




 箸で摘んでやると口を開けた。
 ピンクの舌と、少しだけ人間より鋭い犬歯が見える。
 その中に白米を入れてやるともぐもぐと口を動かしていた。

「美味いか?」




 こくんと頷き、なら、と皿を出し白米を盛ってやる。
 スプーンを持たせて食べ方を教えてやった。
 すぐに理解したのか、まだぎこちないながらも食べ始める。

「何でも食うんだな」




 それとも、人間の姿になっているからだろうか。
 何にせよ、皿に盛ったものを全て食べ終えて満足そうな顔をしていた。

「味噌汁も卯の花もあるぞ」

 目の前に押し出すと、ふるふると首を振った。
 もうお腹いっぱいだということらしい。

「そうか」




 小十郎の口元を拭いてやり、自分の分をまた食べ始める。

「みゃお」

 またソファに乗り、丸まりながらつけっぱなしのTVを見始める。
 意味や内容を理解しているのかは解らないが、真剣だった。




 今日の天気は晴れで、降水確率は0%。
 最高気温は19度、最低気温は8度。
 占いによると、今日の俺のラッキーカラーは青、ラッキーアイテムはリボン。
 リボンなど男の俺には関係のないアイテムだ。
 TVの占いなどあてにはしていないが、ほぼ毎日習慣のように眺めていた。




「小十郎、歯を磨こうか」

 食べ終えて食器を片付けながらそう言うと、ぴょんとソファから降りる。




 洗面所に連れて行き、新しい歯ブラシを出して歯磨き粉をつける。

「口、あ〜んしろ」

「にゃぁん」




 歯ブラシを小十郎の口に突っ込みしゃこしゃこ動かす。
 初めは不思議そうな顔をしていたのに、途中からミントが辛いのか泣きそうな顔になった。




「み゛に゛ゃ…」

「…ほら、水…飲むなよ。くちゅくちゅぺって…解るか?」




 抱き上げて水を口に含ませると、理解したのか口を濯いでいた。
 何度か続けると、落ち着いたのかもういい、と首を振った。




「歯を磨かないと虫歯になって痛いからな…」




 頭を撫でてやり、自分の歯を磨き顔を洗った。
 洗顔は、小十郎が顔に水をつけるのを嫌がったため湯で濡らしたタオルで拭いただけになった。




「まるで親子みてぇ」




 そんなことを、ふと思った。