当たり前のこと。
 朝から殿の様子がおかしい。
 毎朝私が起こしに行くまで絶対に起きようとしないのに、今朝は起きて支度を済ませていた。
 それも、自力で起きたのではなく成実に起こさせたらしい。




 話しかけると素っ気なく「別に」と返されてしまった。
 城下へ赴くというときも、お供を言い出る前に成実を指名して出かけてしまわれた。
 何をするにも、いつもは殿の近侍である自分に任されることがほとんど全て成実に任されていた。




「何か殿の気に障ることをしたのか」

 本気でそう思い悩み、一日らしくない失敗を重ねていた。




 夜、成実に笑顔で言われた。

「片倉殿はいつも苦労なさっているんですね」

「はい?」

 首を傾げると、成実はくすくす笑う。

「殿の子守は絶対に片倉殿じゃなきゃ無理です」




 話によると、殿は城下で茶屋に立ち寄った際に、頼んだ団子についていた餡が成実の方が多いから交換を迫ったらしい。
 それ以外にも、成実に色々と文句ををつけたそうで。
 連れて行ったのはご自分ですのに。




「…今日は何故あなたに?」

 訊ねると肩をぽんと叩かれた。

「そろそろ殿が片倉殿を呼びます、自分で聞いてください」




 言われた通り、成実と別れてすぐ殿に呼ばれた。
 部屋へ行くと殿に布団に押し倒された。




「…殿?」

「やっぱ小十郎じゃなきゃ無理だ」

 心底疲れたようにそう言われ、意味が解らず首を傾げた。

「今日はお前に楽させてやろうと思って成実に色々やらせたが、あいつは気が利かない」

「はぁ」




 今日一日楽した気は特にないけれど、殿は殿なりに考えて下さっていたようだ。




「俺の傍にいるのはお前が一番だ」

「成実にも、私でなくては駄目だと言われましたよ」

「そりゃ、お前は俺のために生まれ生きてるんだからな」

 笑顔でそう言われ少し恥ずかしくなる。

「私は殿に苦労させられるほうが性に合うみたいですよ」

「…でも、たまには休めよ」

「…はい」




 微笑むと、唇に優しく口付けられた。

 たまにはこんな日もいいかも、そう思いながら殿に抱きしめられていた。